室温付近でのグラフェンの熱伝導度は、 (4.84±0.44) ×103~ (5.30±0.48) ×103 Wm-1 K-1 の間になると測定されている。非接触光学技術によって得られたこれらの測定値は、カーボンナノチューブやダイヤモンドの測定値を上回っている。12C と 13C の同位体組成比は熱伝導度に顕著な影響を及ぼす。同位体 12C のみで構成されるグラフェンの熱伝導度は、同位体組成比50:50のもの、自然に存在する99:1のもののいずれと比較しても高い[75]。Wiedemann-Franz の法則を用いて、熱伝導性においてはフォノンの働きが支配的であることを示すことができる[76]。ただし、ゲート型グラフェン・ストリップでは、kBTよりも大きなフェルミエネルギーシフトを引き起こすゲートバイアス印加により、低温条件下での電子の影響がフォノンの影響を上回るようになる。グラフェンにおけるこのようなバリスティックな熱伝導は等方的である[77] [78]

このような高い熱伝導性は、グラフェンの3次元積層体であるグラファイトについて考えることで理解できる。グラファイトは、1000 Wm-1 K-1 を超える基底面熱伝導度を持っている(ダイヤモンドに匹敵)が、基底面間の結合力が弱く格子間距離も大きいため、c軸(面外方向)の熱伝導度は100分の1以下と小さい[79]

グラフェンは、その2次元的な性質にも関わらず、3つの音響フォノンモードを持っている。このうち2つの面内モード(LAおよびTA)の分散関係は線形であり、一方、面外モード(ZA)は2次の分散関係を持つ。このため、低温では、T2に依存する熱伝導度の直線モードの寄与が、T1.5面外モードの寄与によって支配される[80]。グラフェンのフォノン・バンドには、負の Gruneisen パラメータを示すものもある[81]。低温条件(正のGruneisen パラメータを持つ光学モードがほとんど励起されない温度)では、負の Gruneisen パラメータの寄与が支配的となり、熱膨張係数(Gruneisen パラメータに直接比例)は負になると考えられる。最も低い負のGruneisen パラメータは、最も低い横方向の音響ZAモードに対応する。こうしたモードでのフォノン周波数は面内格子パラメータとともに増大する。伸張時の層内の原子が、z方向には動きにくいためである。これは、伸張されているときの弦の振動増幅が小さくなり、周波数が高くなるという挙動に類似している。この現象は、Lifshitz によって1952年に予想されたもので、「膜効果」と名付けられている[82]