吸光特性
グラフェンの不透明度は、原子1個分の単層構造にしては予想外に高い。その白色光吸収率はπα(約2.3%)となる(αは微細構造定数)[67]。これは、ディラック・ポイントにおける円錐形バンド構造で特徴づけられる単層グラフェンの並外れた低エネルギーの電子構造の結果である[68]

室温条件でデュアルゲートの二層グラフェン電界効果トランジスタに電圧をかけることによって、グラフェンのバンドギャップは0~0.25eV(波長5μm程度)の範囲で調整できる[69]。グラフェン・ナノリボンの光学的応答についても、磁場をかけることによってテラヘルツ領域での調整が可能である[70]。グラフェン/酸化グラフェン系がエレクトロクロミック的な挙動を見せ、線形光学性と超高速光学特性がともに調整できることも分っている[71]

可飽和吸収性
グラフェン特有のこうした吸光特性は、入射光の強度が閾値を上回ったところで飽和することが確認されている。この非線形光学的な挙動は可飽和吸収性(saturable absorption)、閾値は飽和フルエンス(saturation fluence)と呼ばれる。グラフェンは、可視光から赤外光までの光による強い励起の下で飽和するが、これはグラフェンのもつ全吸光性とゼロ・バンドギャップによるものである。このことはファイバーレーザーのモード同期と関連しており、グラフェンを利用した可飽和吸収体によって全帯域モード同期が実現されている。グラフェンは、このような特殊な性質から、超高速フォトニクスで幅広い用途を持つ。さらに、グラフェン/酸化グラフェン層の超高速光応答性は、電気的に調整可能である[71] [72] [73]

非線形光学効果(カー効果)
より高強度のレーザー照射を行ったグラフェンでは、通常の可飽和吸収に加えて、非線形光学的カー効果による非線形的な位相シフトが生じる。典型的な開閉アパチャーZ-スキャン法による測定から、グラフェンが 10-7cm2W-1という巨大な非線形カー係数を持つことが分っている。これはバルク誘電体の場合と比較して9桁程度大きな値である[74]。このことは、グラフェンが非常に有望な非線形カー媒体であることを示唆しており、グラフェン中の孤立波(ソリトン)など非線形カー・フォトニクスへの道を開くものであると期待される。