グラフェンは、集積回路の部材として理想的な特性を持っている。高いキャリア移動度と低雑音性能から、グラフェンを電界効果トランジスタ(FET)のチャネル部に用いることができる。問題は、単層グラフェンの製造が難しいことに加え、適切な基板の表面にそれを形成するのがさらに難しいということである。このため、単層グラフェンをもともとの生成源から目的の基板にグラフェンに転写する方法の研究も進められている[101]

2008年4月、マンチェスター大学 Geim らのグループは、厚さは原子1個分、幅は原子10個分という世界最小のグラフェン・トランジスタを開発[102]。同年12月、IBMは、GHz帯の周波数で動作するトップゲート型グラフェン・トランジスタを開発した。IBMのグラフェン・トランジスタは、ゲート長150nmで遮断周波数26GHzを示した[103] [104]。2009年5月には、スタンフォード大学の Hongjie Dai らが、n型グラフェン・トランジスタを作製したと報告した。それまで報告されていたグラフェン・トランジスタはp型だけだったので、この成果によってはじめて、p型とn型の両方が作製できるようになったことになる[105]。同年6月には、ミラノ工科大学のグループが、p型/n型の相補的構造を持つグラフェン・インバータを報告した[106]。ただし、このインバータは電圧利得が著しく低いのが難点だった。

相補型グラフェン・インバータ(Roman Sordan et al., Appl. Phys. Lett. (2009) doi:10.1063/1.3148342)



2010年1月、欧州の共同研究グループは、シリコンカーバイド(SiC)基板上にグラフェンをエピタキシャル成長させ、質・量ともに集積回路の量産に適したものであると報告した[17] [107]。このときのサンプルでは、室温で量子ホール効果が観測された。

2011年6月、IBMは、ウェハースケールのグラフェン集積回路を実証したと報告した。このグラフェン回路は、グラフェンFETおよびインダクタを含むすべての要素が1枚のSiCウェハー上に集積され、最大10GHzでの広帯域周波数ミキサとして動作することが実証された。熱安定性が非常に高いのが特徴で、300~400Kの温度条件下で動作させても1dB未満しか性能低下が見られなかった[108] [109]

IBMが開発したグラフェン集積回路(出所:IBM)