酸化グラフェンが大腸菌などの細菌に対する抗菌作用をもつことが報告されている。食品の鮮度を保つための衛生的包装材などにグラフェンが応用できる可能性がある。

2010年、中国科学院は、水中に分散可能な酸化グラフェン(GO)および酸化グラフェン還元物(rGO)のナノシートが抗菌活性をもつことを報告した。これらのナノシートでは大腸菌(E. coli)の成長が抑制されるが、細胞毒性は最小限に止まっていたという。また、肉眼で視認できる宙吊り状態(freestanding)のGOおよびrGOから、簡単な真空ろ過によって紙が製作可能であることも実証された。環境・医療分野などでのグラフェン紙の商用量産化が期待される[135]

大腸菌に対するグラフェンの作用 (Wenbing Hu et al., ACS Nano (2010) doi:10.1021/nn101097v )



シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)では、グラフェン材料の人体への毒性に関する調査を行っており、A*STAR傘下のシンガポール製造技術研究所が、グラフェンやグラファイトが生体細胞に与える影響について、大腸菌を使って観察している[136] [137]。グラファイト、酸化グラファイト、酸化グラフェン、酸化グラフェン還元物の4種類の材料について、大腸菌に対する毒性を比較した結果、最も毒性が高かったのは酸化グラフェンであり、次いで酸化グラフェン還元物だった。これら2つのグラフェン材料は、グラファイト材料に比べて大幅に高い毒性を示した。酸化グラフェンと酸化グラフェン還元物における粒子サイズの違いから、これらの粒子が大腸菌に影響を与える方法も変わってくると考えられていう。粒子サイズの小さな酸化グラフェンでは、大腸菌の細胞全体が包み込まれる。一方、酸化グラフェン還元物の場合は、凝集物の中に細胞がトラップされ埋め込まれる様子が観察されている。後者と同様の細胞トラップ機構はグラファイト材料でも働く。細胞トラップよりも細胞の包み込みのほうが毒性が高くなる理由は、細胞表面とグラフェンの直接接触によって細胞膜にストレスが加わり、不可逆的な損傷を引き起こすためであると考えられている。

写真上:酸化グラフェンによる細胞の包み込み。下:酸化グラフェン還元物の凝集体にトラップされた細胞 (出所:A*STAR)