2011年12月、スタンフォード大学のグループがグラフェンを用いた圧電材料の作製に成功したと報告した[143] [144]。グラフェンの圧電効果を用いた「ストレイントロニクス(straintronics: 歪み電子工学)」という概念を提唱している。圧電効果では、物理的な変形量と印加される電界が直接比例する。ストレイントロニクスとは、電界によって炭素の格子を歪ませ、予測可能な形で格子の形を変える方法であるとする。

同グループは、スーパーコンピュータを使用した高度なモデリングによって、グラフェン格子の片面への原子の堆積(ドーピングプロセス)のシミュレーションを行い、その圧電効果を測定した。このモデルでは、グラフェンの片面にリチウム、水素、カリウム、フッ素をドーピングした場合や、一方の面に水素またはリチウム、もう一方の面にフッ素をドーピングした場合について検証した。グラフェンの片面だけにドーピングすること、あるいは2つの面にそれぞれ異なる原子をドーピングすることが鍵となる。通常は、グラフェンが持っている完全な物理的対称性によって圧電効果がキャンセルされていると考えられるが、ドーピングのプロセスによって、この対称性が破られ、圧電効果が得られるようになる。シミュレーションの結果、通常の三次元の圧電材料に比肩する顕著なレベルの圧電効果が生じることが分かったという。

さらに、グラフェンの特定部位にだけ選択的に原子が配置するようにドーピングをパターン化することによって、圧電効果を精密に調整することも可能になった。同グループは、これを「デザイナー圧電性」と呼んでいる。精度の高い工学的予測の下で電界をかけることによって、いつ、どこで、どのようにグラフェンが変形するかを戦略的に制御できるようになるという。

ドーピングされたグラフェンの歪み量と電界の比例関係 (Mitchell Ong and Evan Reed, ACS Nano(2012) doi:10.1021/nn204198g)