単分子ガスセンサ
理論的には、グラフェンの2次元構造を利用した高性能のセンサを作ることができる。グラフェンはその体積全体が周囲に露出しているため、吸着した分子を超高感度で検出することができると考えられる。しかしながら、カーボンナノチューブと同様、グラフェンの表面には未結合手(ダングリング・ボンド)が存在しない。このため、気体分子はグラフェン表面には容易に吸着しない。グラフェンには本質的にセンサとしての感度がないということになる[110]

ただし、化学ガスセンサとしてのグラフェンの感度は、グラフェンの官能基化によって劇的に増強することができる。例えば、ある種の高分子薄膜でグラフェンをコーティングするといった方法が考えられる。高分子薄膜は、気体分子を吸収する濃縮器のような働きをする。分子の吸収は、グラフェン・センサの電気抵抗に局所的な変化をもたらす。この効果は他の物質でも起こるが、グラフェンには(キャリアがほとんどない場合であっても)高い導電性があり、低雑音のため電気抵抗の変化を検出しやすいことから、センサ用途として優れているといえる[62]

赤外線センサ
メリーランド大学の研究チームは、グラフェンを用いた新型のホットエレクトロンボロメーターを開発している。ボロメーターは温度に依存して抵抗値が変化するデバイスで、赤外光の検出に用いられる。半導体を用いるボロメーターでは、吸収・検出できる光が半導体のバンドギャップより大きいエネルギーを持つものに限られるが、グラフェンの場合はバンドギャップがゼロであるため、どんなエネルギー状態の光でも吸収できるという特徴がある。このためグラフェンは、テラヘルツ波や赤外光など、エネルギーが極めて低くほとんどの半導体を透過してしまう光の吸収に適しているといえる。エネルギーを吸収した電子が、そのエネルギーを原子の振動として失うことなく効率良く保持できることも、光吸収体としてのグラフェンの特徴である。

試作した二層グラフェン・ホットエレクトロンボロメーターを絶対温度5Kの極低温で動作させたところ、同一温度での既存のシリコン・ボロメーターと同等の検出感度があり、動作速度についてはシリコンの1000倍超という高速で動作することが確認されている。さらに、より低温条件で動作させた場合には、既存のボロメーターを凌駕する性能が得られると考えられる[111] [112]

グラフェン・ホットエレクトロンボロメーターの構造図とポンププローブ実験における応答速度データ。サブナノ秒での応答が見られる (Credit: H.D.Drew et al., 2012)