脱塩処理用フィルタ
2012年6月、マサチューセッツ工科大学は、グラフェンを材料とするフィルタによって海水淡水化処理(脱塩処理)が可能であると報告した[138] [139]。低コストな海水淡水化システムが構築できる可能性がある。微小な孔の開いた単層グラフェンの膜をモデル化し、分子動力学の手法を用いて孔の口径、化学的官能基化、膜にかかる水圧と脱塩能力との関係をシミュレーションした。孔の口径をちょうど1nm程度とするとき、水分子だけがグラフェン膜を透過し、塩素イオンとナトリウムイオンは透過しないようになる。孔の口径がこれよりも大きいと塩素イオンやナトリウムイオンもグラフェン膜を通り抜けてしまうし、孔がさらに小さくなって0.7nm程度になると水分子もまったく透過できなくなる。また、グラフェンに開けた孔の端部に官能基を結合させて親水性または撥水性にした場合については、ヒドロキシル基を結合させると親水性を持つようになるため水の流量がおよそ2倍に増えるが、脱塩能力は犠牲になるといった結果が出ている。脱塩処理にグラフェン・フィルタを使うことの利点は、膜厚が炭素原子1個分しかなく、RO膜に比べて1000分の1程度の薄さであるということ。弱い水圧で水を透過させられるため、エネルギー消費が少なく、低コストなシステムにできる可能性がある。また、RO膜と同じ水圧をかければ、処理速度が数百倍高速化すると考えられる。

水分子(赤と白)だけが孔の開いたグラフェン(水色)を透過できる。ナトリウムイオン(緑)と塩素イオン(紫)は孔を通れない (Graphic: David Cohen-Tanugi)



室温でのエタノール精製
酸化グラフェン膜はすべての液体およびヘリウムを含む気体に対して不浸透であるとみられているが、水蒸気だけは例外で、何の障壁もないかのように酸化グラフェン膜を透過する。水蒸気が酸化グラフェン膜を透過する速度は、少なくともヘリウムの100億倍は高速であるという[140]。マンチェスター大学の Nair と Geim らは、この現象を利用して、室温条件でウォッカをより高濃度のアルコールに蒸留する実験を行っている。この方法では、従来の蒸留法で用いられる加熱や真空が不要となるとしている[140]

Nair とグラフェン膜のサンプル (出所:Manchester University)